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授業が活きる
エピソード満載
  
近世への旅
 
 ――授業中継 エピソードでまなぶ日本の歴史B
日本近世史の22テーマについて、生徒の心をゆさぶるエピソードをそえて自在に語る歴史の授業。人と物が活きいきと交流する近世社会。その実像に迫る。                     
著者=松井秀明
体裁=A5・304ページ
本体価格=2,200円
発行日=2012年12月20日
ISBN=978-4-88527-211-0
在庫=あり
   
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■目次


第10章 幕藩体制の成立
  
 1 金賦りは夕暮れまで 【豊臣秀吉の全国統一】
  残雪の戦い/黄金の寝室/一揆衆を生かす
  針を売る日吉丸/聚楽第に招かれる天皇
  独眼竜の白装束/木の下の猿は末世

 2 検地は櫓櫂のつづくまで 【太閤検地と刀狩令】
  千枚田伝承/天正一九年のGDP
  焼畑は検地を受け入れず/丸腰にならぬ刀狩令
  二六人の殉教

 3 地獄は目の前に 【文禄・慶長の役】
  パリパリ漬けのはなし/少しでも多く差し出せ
  天皇を北京に移す/義兵は野火のように
  漢城の川は三途の川/沙也可登場
  削いだ鼻ははな紙の中へ/氷雨の籠城戦
  最期の花見/故郷忘じがたし

 4 老いたるも、みどりごも 【関ヶ原の合戦・江戸幕府の成立】
  骨と皮ばかりの秀吉/夢のまた夢/花も花なれ
  秋霖の関ヶ原/柿は痰の毒/梅毒だった秀康
  「の」の字型の拡大/駿府から発信された幕府政治
  火を吹くカルバリン砲/山里曲輪での最期
  庶民をまき込む市街戦

 5 鉢植えの大名 【幕藩体制・朝廷、寺社への統制】
  秀忠の才覚/大権現の神号
  大名には二度と生まれず/小袖を広めたひと
  春雨庵のたくあん漬け/高台の茶屋
  合議と月番制/鈴虫を売る旗本
  こたつで観る大名行列

 6 ひとしく巡り来る春 【身分秩序】
  夕立の雨宿り/序列を示さない農工商
  支配の村と生活の村/ユイの思想
  たわけ者は田分け者/八百八町/江戸のパノラマ
  リサイクルの江戸の町/福助さま/七分の一の命


第11章 幕府の対外政策
 
 7 醤油樽二つ送れ 【初期の外交】
  ペンギンの肉を食べる/オランダ人は蜜蜂
  太平洋を往復した初の日本人たち
  サン・ファン・バウティスタ号の出航
  雪のマドリード/先買いの「将軍糸」
  風呂付きの朱印船/エメラルド色の海をゆく
  毒殺された長政/干し大根を送れ

 8 ジャガタラ文が物語ること 【鎖国T】
  赤い花なら曼珠沙華/裸足のジュリア/灰と土の俵
  密告は銀五〇〇枚/そぞろに涙ぐみ

 9 弾丸のクルス 【鎖国U】
  おびただしい人骨と歯/デウスの出現
  血痕の陣中旗/干殺し作戦
  隠れキリシタンの「おらしょ」

 10 中国とつながる四つの窓 【鎖国V】
  文化サロン「長崎屋」/国立の監獄
  唐人屋敷/人参でうるおう対馬藩
  欺かず争わず/一三〇首の添削
  弾丸は雨のごとく/辺境の小国なれど
  八升の「夷俵」/酒宴でのだまし討ち
  「蝦夷錦」と「青玉」の道


第12章 幕藩体制の転換と経済発展
  
 11 犬公方かぶき者を制す 【文治政治】
  うつ症状の家光/幕府を悩ませる牢人問題
  堀は平地のように/犬喰の広まり
  日食を避ける綱吉/蚊をたたいて流罪
  瓦礫を貨幣に変える/綱吉の位牌
  「火の子」白石/一生の奇会

 12 森林は命の竈 【諸産業の発達】
  湖が消える/誤差は一メートル
  三里離れればちがう鍬/紅餅を積む北前船
  阿波地方には嫁にやらない
  ぶどうの道、みかんの道/銀山のような鰯
  明るくなる江戸の町/下々の豊かさは国の豊かさ
  ヒゲは文楽人形に/「白浜」・「田子」の地名
  はげ山となる製塩業/山川の掟
  不眠不休の七二時間/厳冬がはぐくむ和紙

 13 越せぬ大井川 【交通の発達】
  旅が盛んな国/幕府と内通した定飛脚
  梅毒を患う遊女たち/酒代をねだる雲助
  髪を解かせる女改め/火薬で広げる川幅
  小笠原島開発を夢見た瑞賢
  廻船のスピード化

 14 煤を吐く人びと 【商業の発達】
  銀遣いと金遣い/相場を読む先物取引
  蔵前風ファッション/焼印の木札
  金魚が泳ぐビードロ天井/畳の上の人通り
  二度と来まいぞ金山地獄


第13章 幕藩体制の動揺
  
 15 象泣き坂の由来 【享保の改革】
  雨量を測る将軍/二つの偶然/有能な人材登用
  御恥辱をかえりみず/土地の質流しは禁止
  三つの川を結ぶ運河/鳶職の火消し
  病人坂の療養所/隅田川の花火のルーツ
  世に役立つサツマイモ/鍋の中はどろ粥のように
  全身黒ずくめの殿さま/米相場のメモ録

 16 消えゆく七ツ星 【田沼の政治】
  田沼街道/部屋いっぱいの花菖蒲
  銅はダンスパートナー/ラッコを求めて
  エカテリーナの肖像画/生死を分かつ一五段
  ほおずき市のなりたち/世直し大明神
  百姓への重税は筋違い

 17 清い白河の政治 【寛政の改革】
  もし今度の騒動なくば/帰る者は四人
  柿色に水玉模様/「六無斎」といわれたひと
  かなわぬ足でこけまろび…
  「大日本恵登呂府」の標柱/風月のひと
  一○○万本の漆の木

 18 西陣焼けで広まる絹 【手工業の発達】
  日本山海名産図会/出稼ぎのうた
  伊万里をしのぐ「せともの」
  出まわる桐生更紗/夏に涼しい越後縮


第14章 近代のめばえ
  
 19 四分割の激文 【大御所政治】
  白牛酪と牛肉の味噌漬/露寇事件とは?
  間宮海峡発見の陰に/「タイショウ、ウラー」
  世直し劇『東海道四谷怪談』/忠治の死に装束
  平方根・立方根の開法/世直しの神が来る
  救民の旗

 20 皮多村豊五郎の世界観 【農村工業の発達・地域市場の形成】
  幼児をおんぶして/水車でうごく八丁撚車
  江戸前鮨をささえた酢
  雪国にもたらされた木綿/里を見下す白壁の家
  徳をたたえる筆子塚/大根で団十郎する子
  渋染一揆をたたかった人びと

 21 雪紋様の印籠 【天保の改革】
  妖怪になった人びと/出世城への転身
  不忠不孝渡辺登/硝酸銀で片顔を焼く
  北晨の幟旗/金さん江戸歌舞伎を守る
  十里四方は元の土/古瓦飛び込む水野邸

 22 維新のゆりかご 【西南諸藩の改革】
  黒糖地獄の唄/犬田布騒動とは?
  日本のスエズ/天保の農地改革
  おこぜ組の改革

 
本書「余話」より

京枡と検地尺と

「刀狩り」はともかく、「太閤検地」授業ではとかく面積・容積などの単位や一地一作人制などの用語に足をとられがちです。わたしが最低限これらの単位で具体的説明をするのは二つ。「町」はほぼ野球場一つぶんの広さ、「一石」は成人が一年間に食べる米の量というようにしています(あってはならないことですが、時折「石高」を石の量とその重さと勘違いしている生徒がいます)。
さて、太閤検地の授業でわたしが必ず参考にする本が『歴史誕生 七』です(この中には「地租改正」もあり、この手の本では二つの土地制度史のトピックがある珍しい構成?になっています)。見開きA3サイズの大判でカラー写真が多くて見やすいのが特徴です。その中の現存するもっとも古い検地帳(山崎合戦の翌年の検地帳が三ページにわたりワイドに紹介されています)には、奉行の名前に「石田左吉」とあり、当時まだ無名だった石田三成の名を見つけることもできます。
また、この本や図説にも紹介される「検地尺」は修学旅行引率の際、所蔵先の尚古集成館の資料館で見たことがあり、レプリカの存在を知っていたのでミュージアムショップに尋ねたところ、今は販売されていないとのことでした。また、「京枡」に代用する「一升枡」は、百円ショップで購入が可能。普段は職員室のわたしの机の上で小テスト入れになっています。

悲しきクロユリ伝説

本書で、秀吉・三成から庶民にいたるまでの多くの生死を描いてみました。こうした類のにわか勉強として、まっさきに手が伸びるのが著名人の死にざまを描いた作家(医師でもある)山田風太郎さんの『人間臨終図巻上・下』(徳間書店、文庫版もある)です。本には十代で亡くなった人びとから121歳で亡くなった泉重千代さん(生まれは慶応元年!)まで450名の死が語られます。
たとえば、本書にも紹介した細川ガラシャの文末は次のようにしめくくられています「信長の妹たるお市の方と、宿命の敵明智光秀の妹たるお玉と、いずれも当代の美女といわれた二人が、同じ年齢で、炎の中に非業の死をとげたことは一奇であるといえないこともない」。風太郎さんには特に明治を扱った小説に佳作が多く、戦中から戦後の自らのあゆみを綴ったいくつかの『山田風太郎日記』(小学館)も、史料としても読みごたえがあります。
文中に引いたクロユリの話は、植物学者湯沢浩史さんの素敵なエッセイ『花おりおり その二』(朝日新聞社)を読んだのがきっかけでした。成政とクロユリにかかわる伝説をもう一つ。成政が寵愛していた美女小百合。それをねたむ女たちの「小百合が小姓と密通した」という讒言を信じた成政は彼女を殺害。小百合は「もし立山にクロユリが咲いたら、佐々家は滅亡するだろう」と言い残しました─その後成政は九州で亡くなりました。クロユリは悲しい伝説に彩られた花なのです。高山植物のクロユリは今も七月下旬から八月にかけて立山をいろどります。

東大寺門前の鹿皮

「初期の外交」では、まずイギリスがなぜ、10年で日本から撤退したかを重視します。教科書はその理由をまったく触れていません。しかし、それを追求することで世界史的広がりを生徒に認識させることができると思います(詳細は本文参照)。
この辺のところを『街道をゆく11 肥前の諸街道』(朝日文庫)の中で、司馬遼太郎さんは、商館長セーリスと、以前はロッテルダムの会社の従業員であったアダムズとの対立があったとしています。アダムズがオランダ商館の顧問にもなっていたことも原因だったとしています。平戸では、復元されたオランダ商館に比べ、イギリス商館跡の石碑があるだけです。
次の朱印船貿易では、大型判拡大コピーでとった朱印船貿易の地図を黒板に縦いっぱいにして貼ります。事前にそこには日本町や航路を着色しておき、この地域の冬と夏の風向きを問いかけます。朱印船貿易を語る上で、季節風の風向きは必要不可欠だからです。また、船の構造などは参考文献にも記した石井謙二さんの著作が使えます。日明貿易船や遣唐使船、菱垣廻船・樽廻船など弁財船の話をするときにも役立つ本です。
輸入品の生糸は実物を蛍光灯などの光にあててみせ、「白糸」と呼ばれたこと説明します。また、東南アジアからの輸入品の一つである「鹿皮」は、以前東大寺門前の店で購入しようとしましたが、それが奈良公園内にいる鹿の毛皮ではないにしても、あのつぶらな目を見たとたんとてもそれを買う気にはなれませんでした(笑)。 

茶袱紗のじゃがたら文

長崎より先に、異国への窓口になった「平戸」。今、平戸島へは大橋が架かり、便利になりました。オランダ商館も復元されています。ここには「こしょろ(誰かは不明)」がジャワ更紗でつくられた袱紗(ふくさ)の裏のつなぎあわせた小布に書いた達筆な「じゃがたら文」を見ることができます「日本こいしやゝゝ/かりそめにたちいで/又とかへらぬふるさとと/思へば心もこころならず/なみだに むせび/めもくれ ゆめうつ丶とも/さらに わきまへず候へども/あまりのことにちゃづつみ一つしんじまいらせ候/あら にほんこいしやゝゝ こしょろ うば様 参る。」わたしは、このじゃがたら文のハンカチレプリカを持っています。生徒たちには「日本こいしや」と前後三回ずつくり返す彼女の母国への思いをつたえてあげたいものです。
この文をふくめ「第11章」は常に世界史的フィールドを意識したいところです。サークル「ゆいーる」の仲間、良知永行さんから紹介された本に羽田正さん(最近の著作として世界史の新しいとらえ方を説いた『新しい世界史へ』岩波書店がある)の『興亡の世界史15 東インド会社とアジアの海』(講談社)があります。東インド会社を軸に17〜18世紀の世界史が描かれています。商品や人の叙述も具体的でわかりやすく、授業に使える本だと思います。
羽田さんは本の中で「春」や「コルネリア」など混血児のことを取り上げ、18世紀のそういった人々への幕府の対応の違いを明確に述べています。18世紀に入り、長崎丸山の遊女とオランダ・中国人との間の子どもについて、18世紀前半のように追放するのでなく「日本で生まれた混血児は日本人で政権が管理するべきであると考えられるのだ」として、「今日につながる日本と日本人という意識が形成された」としています。例えば、シーボルトと楠本たきの子いねも日本で育ち産科医として活躍しますね。
 
商売繁盛のツバメの巣

わたしの授業は、産業の発達のところで「鉱山業」は抜き、「商業の発達」と組み合わせるようにしています。本文に紹介した『佐渡金山圖會』(インターネットで見ることができます)をコピーし、本文にあるような採掘の苦労話します。豪商の散財のエピソードと対比させれば、より効果的でしょう。「参考文献」としては、紹介した郷土史家磯部欣三さんの本をすすめます。
実物教材は、丁銀・豆板銀・小判のレプリカ、江戸東京博物館で購入した文鎮用の分銅などが使えます。大店「越後屋」をメインに教材を組み立てるならば「駿河町越後屋呉服店大浮絵」をカラーコピーし、二人一枚で見せたらどうでしょうか。
いつかの授業で、「梁のところにツバメの巣が描かれているのはなぜか?」と発問すると、ある生徒が「商売繁盛の様子がわかるから」(ツバメが巣をつくる家は繁栄するとの言い伝えがある)と答えてくれました。『見る・読む・わかる日本の歴史3』(朝日新聞社)にはこの絵の解説を近世都市史の専門家吉田伸之さんが書いて勉強になります。
先にあげた『熙代勝覧』にも越後屋の鳥瞰図が描かれ、より立体的に理解できます。現在の日本橋近くにある三越百貨店の道を挟んだ北側、三井住友銀行があるところが越後屋のあったあたりです。
さて、「堂島米市場」は、「享保の改革」で再び教科書に登場しますので、ここでは米相場のしくみを理解させる必要があります。特に「帳合米取引き」については、岩井三四二さんの小説『一手千両〜なにわ堂島米戦争〜』(文春文庫)がイメージ豊かに描写し、教材研究に役立ちます。

教室をつつむ高麗人参の香り

わたしの田沼の授業はけっこう華やかです。盛り上がりを示すのは、一人一人に配る「高麗人参ガム」です。ガムのパッケージをあけただけでも、教室はニンジンの臭いに包まれます。「サポニンという物質が血液の流れをよくする健康食品だ」といって江戸時代のニンジン人気を少しだけ追体験させます。
しかし、近年このガムが韓国で発売停止になったらしく、最近では「高麗人参飴」に切り替えています。これでも充分、ガムの代用になります。飴のパッケージをプリントに貼らせ、「この臭いで田沼の政治を思い出すように!」と言ったりします。飴をなめた生徒は血の循環がよくなり、顔が赤くなります。臭いはもっとも強烈に人間の記憶を呼び覚ますそうです。臭いの教材集めは大切です。
相良藩主だった田沼にちなみ、静岡県御前崎市相良町では「ワイロ最中」なるものを箱入りで販売しています。最中は小判型。また、ティーバッグも金色のパッケージに入っており、「したごころ」という祝儀袋が添えられています。田沼の業績も箱のふた裏に示されています。革新的政治家の田沼のイメージを賄賂で塗りつぶしてしまいそうな危険性?もありますが、これを持っていくと教室はさらに活気づきます。
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